会社でなく、俺を買ってくれ症候群

今は、お前の会社の製品が買いたいから、お前を呼んでいるが、

お前から買いたいから、お前の会社の製品を使ってやる

になったら営業として一人前だ。

 

駆け出しの営業の頃に、あるお客からこのように言われた言葉です。その人とは、その後も、いろいろとあって長い付き合いになったんですが、社会人人生の初期に、こう言われたことはとても私の仕事観にプラスになったと思います。仕事に対する考え方を決定づけたと言っても良いかもしれません。人呼んで「会社でなく、俺を買ってくれ症候群」って病気か?って話ですが、私はある意味、持病になっています。

 

営業時代の肌感覚では、お客さんは「①自社の製品/サービスが気に入って買うお客」、「②自社の製品/サービスがたまたま手に入りやすい環境があるから買うお客」、「③私だから買ってくれるお客」の3種類がいて、数で言うとだいたい1/3ずついると思います。だいたいです。

 

①のお客さんをつなぎ止めるために営業担当がする活動は、その人の製品/サービスに対する評価を聞き、本人が口で語る以上のお気に入りポイントが何かを観察し、それを自社のバックオフィスに伝えて反映させ、実際に製品/サービスに反映されているか、お客さんに届いているかを確認するところまでです。これはこれでしんどい仕事ですね。そして人の責任にして手を抜くことが可能な仕事でもあります。バックオフィスや外注が協力してくれないのが悪いと言えば、自分は救われた気になります。それを許してくれる上司に恵まれた人は、営業として幸運とも言えるし、不幸とも言える気がしますね。

 

②のお客さんに対しては、その買いやすく、選びやすくしている環境要因は何なのかをつきとめて、強化する手を打ちます。その過程で営業担当のことを評価してくれて③に移行してくれるお客さんも多くいます。時には、いち営業マンにはコントロールできない大きな環境要因で選ばれていることもあり、その時は、精一杯できることを探して保険をかけておくんですが、営業マンとしては深追いはしなくて良いと思っていました。そういうお客さんは環境が変わればまた帰ってくるかもしれないし、会社としても実力でつなぎ止めているお客さんではないので、無理が生じるので、もし、それでも本当に大事なお客さんなら組織としてコストを掛けて手を打つべきという提案まではしていましたね。

 

③のお客さんは営業マンとして尽くしがいがあるお客さんです。だいたい面倒な人であることが多く、冒頭の言葉をくれたのも③の人です。本当に困った時に助けてくれたり、言いにくい本当のことを教えてくれるのも③のお客さんなので大事にして間違いはありません。

 

営業マンとしてはどうしても、この③のお客さんに偏ってしまうところがあります。私の経験では、売れる営業ほど、③にこだわってしまう。自分が掛けたコストを無意識に正当化しようとするんですね。そのためにいかに面倒くさくても、①や②にも日頃から労力をかけておくのが大事だと思いますね。社内を相手にするので面倒で、直接は数字につながらない仕事ですし、時には仲間の仕事を批判したととられかねない指摘もすることになって、とにかくストレスが掛かります。こういう活動を評価できる上司も少ないですし。自分で営業したことがある社長にしか評価できないかもしれません。今の日本の評価制度では。

 

そして、いまは営業から離れて企画の仕事をしているんですが、未だに③のお客さんを探してしまう自分に、ちょっと辟易としてこのブログを書いてみたのです。仕事に対する情熱を自分に与えてくれるのは③のお客さんであることが多いし直接的な達成感も③のお客さんが与えてくれるので。ああ、単に情熱を持って仕事がしたいという欲求なのかもしれませんね。もしくは①と②の仕事を企画としてやっているんだから評価してくれという欲求か。