90年代の末の営業スタイルを思い出した

その昔、営業という仕事はお客さんと仲良くすればするほど実績を上げることができたそうです。高度成長期〜バブルが過ぎるまでは、その傾向は変わらなかったと言います。96年くらいから潮目が変わり、単純なお客さんとの親密さが必ずしも営業マンの優秀さを示さなくなったのです。今もその傾向は変わらないと思います。

 

営業をやったことのない方は、あれ?っと思うかもしれません。営業ってお客と仲良くすればする程いいんじゃないの?と。違うんです。仲良くしすぎるとお客さんが困った時にも助けてあげなきゃならなくなるでしょ?だから適度な距離感を保った、都合の良いお付き合いの方が会社のためにはなるのです。ひょっとしたらバブルの頃に業績を伸ばしていた営業マンも、そういう心得があった賢い人たちだったのかもしれませんが、バブル崩壊後から難しい判断を迫られるようになったという点についてはご賛同いただけるのではないでしょうか?

 

私はバブル崩壊後の98年から、ある生産財というか機能性建材の営業を経験したのですが、その年に私と入れ違いで早期退職で辞めていった課長のアドバイスが今も忘れられません。「お客と仲良くすればする程いいって言われて育って来た俺たちの時代は終わった。これからはお客と猾く賢く付き合わないといけないが俺にはそれができない。」と2人っきりで最終日にランチに誘われて言われた言葉は、その後も私のキャリアの中で何度と無く私を救ってくれました。自らも生き残るのに必死な古い認識のお客から過剰なサービス(赤字での受注強要、絶望的に無理な納期対応)を要求されたり、同じく旧態依然とした上司の下について会社に損害をだすような受注をさせられそうになったときも、この一言を思い出して毅然と対応することができました。

 

山一証券の破綻から20年ということで、メディアに元・山一社員のことが取り上げられますが、当時のお客様が山一社員の身の上を心配してくれたという美談がよく出てきます。実際、職探しを余儀なくされた社員の皆さんは大変だったと思うのですが、一方でそういったお客様との良好な関係を示す美談というのも、97年に破綻したればこそ残った美しい思い出なのでは無いだろうか?と私はそう読みます。でも、だからこそ、そんなあのころの日本の商いのあり方が懐かしくも感じました。

 

98年以降も信じている人の心の中には生き続けている流儀だと思います。私もそういう古風な先輩やお客様に教えていただき、育てても頂きましたので完全否定はしません。ただ、あの頃以降、目の前のお客様がその流儀で生きているかどうかを見極める目を持たないと大やけどをする時代になっちゃったのは事実のようです。今や営業は誰にでもできる仕事ではなく、そんな中で日本の会社は少しづつ錆び付いているのではないか?と急に寂しくなったりする訳です。