規定演技と自由演技に向けた心構え

築地市場の安全性の議論を見ていて、過去に自分が建材の営業担当時代に経験した深刻なクレームのことを思い出しました。詳細は言えないのですが、当時の業界水準に照らして妥当、もしくは少しレベルの高い仕事をして施工・納品したところ、後から「将来の世界水準を語る施設責任者」が納品先に登場し、我々の仕事の否定をはじめたのです。入札時点で設定された要件と、施工後に求められている要件が大きく乖離していることを丁寧に説明したのですが、その施設責任者の高ぶった感情は収まらず、製品の些細な瑕疵を列挙し始め、元請けのゼネコンを巻き込んで建物全体を受け取る受け取らない、つまりお金を払う払わないの話になって大きな問題になってしまったことがあります。あの高ぶった感情は、おそらく着任早々に自分の存在感を示したいという気持ちと正義感がミックスした高揚感だったんだろうなと今から見て思います。(その瑕疵に対する説明を当時の会社の技術トップが「原因を説明できない、だから対策もできない」とお客の前で放り投げてしまったことから、私はその会社に見切りを付けて転職することになったのですが、その話はまた別の機会に。)

 

この案件も公共施設だったんですが、築地の状況と良く似ているんです。後から任命されて前任者のやったことを少し批判的に点検しなければならない立場の人が、フレッシュな目で見て批判できることをできるだけ事細かに列挙して批判すると、こういう問題は簡単に作れます。本人は作っているつもりは毛頭ないと思いますが、客観的に見ると問題を作っていることになってしまいます。

 

世の中のお仕事にはルーチンなものとクリエイティブなもの、仕組みに落とし込んで効率を追い求めることに価値がある仕事と創造的に取り組んで新しい発想を生み出すことに価値がある仕事、フィギュアスケートで言うと規定演技と自由演技というのがあると思います。この二つの仕事に求められていることの違い、ルールや採点方法の違いが理解され、お互いに尊重されないままに同じ土俵で採点を始めてしまうと解決の出口は閉ざされてしまうのです。数学で言ったら解がない問題の解を探すような状態になります。問題を作ったご本人はとびっきりの難問に挑んでいる高揚感を味わえるのが厄介ですね。

 

食品の衛生管理に関して言えば、90年代後半に日本でもHACCPというアメリカのNASA発祥の管理手法が導入されています。HACCPはHazard Analysis and Critical Control Pointの略で重要な管理ポイントを作業工程の分析によって絞り込んで管理しましょうという思想の管理手法です。衛生管理という日常業務を仕組み化して規定演技に落とし込み効率よく取り組みましょうという考え方です。この考え方を元に、現在はセンサー技術が発達していますので食品の安全管理の手法自体は、プロ達の手によってかなりレベルの高いものになっていると思っています。この手法の部分に疑問符をつけるのは、よく勉強してからの方がよい気がします。

 

見ている人に向けたパフォーマンスは自由演技の領域で、やろうと思ったらいろいろな表現方法があり、対象者も多様なので、バリエーションの開発にはきりがない世界です。なので、そのルールと規定演技のルールを混同して、いつまでも100点満点の演技を探していたら結論は出ないかもしれないですね。

 

個人的には日本中の海や山や畑や水田で穫れた自然な食材が集まってくる市場の施設としては豊洲は立派な気がしますし、安全だと思ってよい状態な気がします。食材自体の汚染は現在も100%防げていないんじゃないかと思います。私たちはその可能性も納得して、自然のものをいただいているんじゃないんですかね?その納得の上であれば豊洲で十分だと思いませんかね。

 

小池さんに好感は持っているので、ぜひ行政のプロとしてスマートな決定をしていただきたいと思います。おそらく都庁にお勤めの方、築地市場の関係者、豊洲の関係者もみなさん都民ですから、早めに決めてあげることが本当の都民ファーストである状況だと私は思いますよ。